大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(う)31号 判決

一、弁護人は原判示第三の事実は中止未遂の場合であるから、刑法第四十三条但書を適用しない原判決には法令の適用を誤つた違法があると主張する。

しかし共犯の場合の中止未遂は共同正犯者の一人が単に自己の行為を止めるだけでなく、現に他の正犯者の実行行為の続行を妨げ又は共同結果の発生を防ぐことが必要であるから、すでに他の正犯者に中止未遂の成立があつて右防止が不可能となつた以上爾余の共同正犯者には中止未遂の成立する余地は存しないと解すべきである。よつて本件についてこれをみるに、原判決挙示の証拠とくに被告人の検察官に対する第二回供述調書、木下猛の検察官に対する第二回供述調書、榊ギン子の司法警察員に対する供述調書によると、被告人は青森駅前川崎旅館において木下猛、榊ギン子との間に、木下猛が紹介人、榊ギン子が求職者を装い料理店から前借金名義で金員の交付を受け、その直後被告人が遊客を装いギン子を手引逃走せしめる方法により金員を騙取しようと共謀し、被告人は同旅館に止つて木下からの連絡を待ち、木下と榊が原判示料理店業小野正吉方に到り、木下が紹介者を装い正吉等に対し求職者を装うギン子を引き合わせ原判示のとおり同女が同店において稼働すると虚言を以て前借金の交付方を求め、同人と榊の雇傭契約の成立につき交渉中、ギン子が事の重大さに気づき飜意し、同店で働くことの承諾を拒絶するに至つたため、金員騙取の目的を遂げなかつた事実を認めることができる。これによれば榊ギン子に詐欺罪の中止犯の成立することは明らかではあるが、すでに同女にその中止犯の成立があつた以上、前記理由により被告人に詐欺中止未遂の成立する余地はなく、被告人は詐欺罪の障碍未遂の責を免れ得ない。したがつて原判決が被告人の右所為に対し単に刑法第二百四十六条第一項、第二百五十条を適用したのみで同法第四十三条但書を適用しなかつたのは正当であつて、原判決には所論のように事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 岡本二郎 裁判官 兼築義春)

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